治療症例集
歯がなかなか生えない(埋伏歯(まいふくし))
歯は根が3/4完成すると顔を見せます。歯が粘膜から出てきます。根がすべて完成してもなお遅れて出てこれない状態を萌出遅延といいます。更に継時的に自力では出てこれない時に埋伏歯となります。
歯が出てくるときに道に障害物があったり、その道が異常なときに埋伏状態となります。場所は親知らずの歯が圧倒的に多く認めます。その次が上顎の犬歯です。また上顎の犬歯の埋伏はアジア人では唇側に多く、女性に多いこともわかっています。また乳歯の犬歯がなかなか生え変わらないとのことで来院される方が多いです。検査にて埋伏していることに気付かれるかたもいます。また左右ともに埋伏される方も見受けられます。前歯の多くの場合は開窓術(粘膜や骨を切除して歯を露出させる)によって様子をみて、それでもなお歯が出てこない時は矯正治療を用いて歯を適切な位置にそろえます。
診断名:上顎左側埋伏犬歯 上顎前突症
治療開始年齢:11歳4か月
使用した装置名:牽引装置付きリンガルアーチ、マルチブラケット装置
抜歯:上顎両側第一小臼歯
治療期間:3年1ヵ月
費用の目安:65万
リスクおよび副作用
埋伏歯を牽引し、矯正治療を行うことにより歯列の正常な位置に導くことができますが、その歯の術後の周囲の状態が重要です。矯正中に歯周組織が美しい状態であることが成功への近道です(歯ブラシ習慣を徹底すること)。また移動量が多いので確実に固定をしないと後戻りが多いので注意が必要です。ごくまれに埋伏している歯が全く動かないことがあります。その理由の多くは歯根の強度の湾曲です。(釣り針状の歯根)また骨性癒着(アンキローシス)も考えられます。
出っ歯が気になる(上顎前突症)
歯が出てしまう原因は歯の傾斜だけの時と、上と下の顎の骨格の位置関係した原因の大きく2つがあります。下顎の骨の後退(下顎が小さい)と上顎の骨が前方に位置しているかのいずれか、もしくは両方が見られます。
治療開始の時期により使用する装置が異なります。成長期の段階であれば上顎の骨成長を抑制したいときにはヘッドギアを在宅時に使用してもらいます。下顎の骨の成長を促進したいときは顎機能装置を使用していただきます。永久歯の生えそろった段階からの矯正治療は多くの場合が前歯を後ろに移動したので、マルチブラケット装置(ブラケットを歯の表面につける治療方法)を使用します。また難易度が高い方には歯科矯正用ミニスクリューを用いることがあります。上顎前突症で小児から矯正歯科治療を開始され方は一期治療に続き二期治療が必要になることが多いです。一期治療とは乳歯の残っている時期の治療を言います。二期治療は永久歯に生え変わった段階からの治療を言います。
診断名:上顎前突症
治療開始年齢:19歳5ヵ月
使用した装置名:マルチブラケット装置(ラビアル歯の表からの治療)
抜歯:上下両側第一小臼歯
治療期間:2年1ヵ月
費用の目安:75万
リスクおよび副作用
抜歯をして歯を移動すると歯の根の先が吸収することがあります。多くの方は生活に支障はありません。口元が引っ込みますが同時に唇の形にも変化が起きます。多くの方が唇が薄くなります。また生まれながら唇の厚い方はそれを考慮して矯正治療計画を立てます。
受け口で悩んでいる(反対咬合(はんたいこうごう))
受け口を専門的な用語では反対咬合といいます。反対咬合の矯正歯科治療では小児の時と成人の時で治療が異なります。
小児の時(成長期)は症状や状態により上顎の成長を促したり、下顎の成長の方向を変化させたりして上下の顎の位置関係を良好にしていきます。成長期でしかできないことを行います。これを一期治療といいます。また多くの方に舌の位置や嚥下を正しく理解して頂く必要があるのでMFT(筋機能訓練)を行います。
下顎の成長がある程度終了した段階で本格的な矯正治療(二期治療)を行います。
小児の受け口の方の治療は一期治療と二期治療の二段階の治療ステージがあります。一期治療で治療が終了し、その後下顎の成長を待ってから二期治療に移行します。また永久歯がすべてそろったとしても下顎の成長が旺盛なときは成長が止まるのを待って治療することもあります。成人の方は二期治療、マルチブラケット装置を使用した治療から開始となります。状態によっては外科的治療を併用することもあります。
診断名:反対咬合
治療開始年齢:5歳5ヵ月
使用した装置名:リンガルアーチ
抜歯:無
治療期間:一期治療期間は17か月
治療費の目安:25万(一期治療費のみ)
リスクおよび副作用
一期治療中、矯正装置は変化追加しますので、必要によっては顎を広げる装置が必要となります。
上顎の骨を積極的に成長促進させたいときには上顎牽引装置を用います。自宅では口腔内だけの装置のほかにマスク(フェイシャルマスク、クリブ)をつけていただきます。
反対咬合は一期治療で治っても、下顎の成長により反対咬合が再発することがあります。下顎の成長時期は身長などの成長時期に似ていますので第二次成長期に大きく成長することがあります。その時は再度検査診断を行い、時期を見て二期治療に移行していただきます。
前歯がガタガタ(叢生(そうせい))
前歯がガタガタの患者様は歯の大きさと顎の大きさに不調和が生じて、歯が適切な位置に出ることができない状態がほとんどです。
顎の骨が発育段階であれば顎を側方へ広げて大きくすることができますが、限界があります。そのようなときは歯を抜いて治療することになります。
その限界とは歯を抜かいない治療をすると口元が出てしまい顔貌すなわち横顔が悪くなることを意味します。
また長期的にも歯を抜いたほうが良いこともあります。しっかり説明を受け理解した後に治療開始となります。
今回は歯の並びをきれいにし、治療後に口元が前に出るのを避けたいとのことでしたので歯を抜いて治療することになりました。
診断名:叢生(そうせい)
治療開始年齢:15歳8か月
使用した装置名:マルチブラケット装置(ラビアル:歯の表からの矯正)
抜歯:上下両側第一小臼歯
治療期間:2年2ヵ月
費用の目安:70万
リスクおよび副作用:
治療開始後、数か月間はガタガタが大きいと矯正用ワイヤーが飛び出たり、ブラケットが取れやすいことがあります。半年経過するとその様なことははなくなります。
また歯を抜いて矯正治療するとまれに歯の根の吸収が起きることがありますが、生活には支障はありません。大人ではブラックトライアングル(歯の間が大きく見える)が発現することがあります。
すきっ歯で息が抜ける(空隙歯列)
すきっ歯のせいでしゃべりにくいとのことで来院されました。
すきっ歯の原因は大きく二つがあります。第一は舌や口唇が前歯に力を加えて起きる場合と第二には噛み合わせが経時的にに深くなり下の前歯が上の歯を押し出した結果すきっ歯になる。本症例では前者原因が強く疑われ、更に乳歯から永久歯への生え変わりの段階での異常も認めました。矯正治療開始同時にMFT:筋機能訓練を行い、正しい口や顎、舌の使い方を習得していただき、矯正歯科治療を進めました。上顎の前方への突出および下顎の後退を認めたため上の顎の第一小臼歯を抜歯して治療を行いました。
診断名:空隙歯列、上顎前突症
治療開始年齢:13歳9ヵ月
使用した装置名:マルチブラケット装置(ラビアル:歯の表からの矯正)
抜歯:上顎両側第一小臼歯
治療期間:1年9ヵ月
費用の目安:70万
リスクおよび副作用:
空隙歯列は後戻りのリスクが高いのでMFTを断続的に行います。若年者はあまり見受けられませんが、歯周病の方は歯の周囲の骨が吸収してしまい。更に歯が傾斜や動くことによって下の前歯が上の前歯を突き上げ空隙歯列を引き起こすこともあります。ですから歯周病の予防は非常に重要になります。
前歯でかめない(開咬)
前歯で噛めない原因として普段の舌の位置や出す癖、モノを飲み込む際の唇の緊張や舌の前方への押し込みなどがあります。小児から症状がでることが多く、成人以降でも症状が出ることがあります。まずは原因の除去のためMFT:筋機能訓練を徹底的に行います。矯正装置を装着しながらMFTをおこないます。担当歯科医師、衛生士と一緒におこないます。治療終了後もMFTを行うことで歯列の安定を目指します。患者様の口腔、顎機能の癖は多岐にわたりそれぞれにあったMFTや矯正のメカニクスが必要となります。
診断名:開咬
治療開始年齢:17歳10ヵ月
使用した装置名:マルチブラケット装置(ラビアル歯の表からの矯正)
抜歯:上下第一小臼歯
治療期間:1年9ヵ月
費用の目安:75万
リスクおよび副作用:
開咬の方は顎関節に異常があることがあります。治療途中に顎に痛みや雑音を認めることもありますが、多くが問題はありません。また開咬の治療後は安定が困難であり、リテーナーの使用の徹底とMFTもしっかりやってもらう必要があり、治療回数が若干増えます。